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COLUMN

2021.05.25

渋谷の街全体をミュージアムに!アート作品を巡る「分散回遊型イベント」とは

#渋谷#イベント#ヒント#ロケーション

2021年3月に実施された「渋谷ファッションウイーク」では、ファッションとアートをテーマに、コロナウイルス関連拡大防止に配慮した分散回遊型イベント「FASHIONART(ファッショナート)」を展開。今回は、プロデュースを手掛けたDESIGNART(デザイナート)より青木昭夫さんにお話を伺いながら、企画の裏側に迫ります。


青木昭夫 DESIGNART代表取締役/クリエイティブディレクター
デザインイベントのディレクターを経て、2009MIRU DESIGNを始動。
クリエイティブディレクターとして、アート、建築、インテリア、プロダクト、ファッションなど、多岐に亘るクリエイターのネットワークを活かしながら、企業のブランディングや展示会の企画、プロデュースを行っている。2017年からは国内最大級のデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」の代表を務め、ミラノサローネの最新情報とマップをまとめた「Milano Salone Description」やパブリックアートの支援活動「1% for Art」の啓蒙など、クリエイティブ産業におけるインフラを積極的に整える様々な活動に尽力している。2021年には、渋谷駅に出現したジュリアン・オピーのパブリックアート「Night City」が大きな話題となった。


FASHIONART(ファッショナート)とはどのような展開なのですか。

FASHIONARTは渋谷ファッションウイークがフォーカスするファッションやアートを機軸にアーティストと場をつなげ、渋谷の街歩きを楽しみながら展示作品を鑑賞できる分散回遊型イベントです。

 

―“アーティストと場をつなげる“とは具体的にどのような仕組みなのでしょうか。

まず、展示を希望する商業施設や路面店などを募り、そのほかにも、渋谷の街全体のなかで意外性のある場にアートで彩りをそえることで、多くのお客様や街を行き交う人々に新しい気づきや出会いをもたらす場を探します。その場所に最適なアーティストを様々な視点から選出し、その場ならではの展示をアーティストと共に対話しながら決めていきます。重要なポイントはアーティストと会場側双方の望んでいるものを引き出し、重なるところ見つけていくことです。

 

―アーティストと場のマッチングをプロデュースされたということですね。しかも、ただ両者を引き合わせるだけでなく、そこでしか生まれない魅力的な作品展示へと磨き上げていくのは骨が折れる仕事です。

 

|世界的アーティストのジュリアン・オピーが渋谷でパブリックアートを展開

ジュリアン・オピー「Night City2021 Powered by GMO at 東急電鉄田園都市線東横線・東京メトロ半蔵門線副都心線渋谷駅B7出入口付近 21番エレベーター 写真:尾鷲陽介

 

―今回、FASHIONARTのスペシャルアートプロジェクトとして、世界的アーティストであるジュリアン・オピーが参加したことが話題となりました。描き下ろしアート作品を「渋谷」で披露した経緯について教えてください。

展示をコーディネートしていくにあたり意外性のある場所を探していたときに、たまたま渋谷駅東口広場にあるキューブ型の建造物にいい意味で違和感を覚えました。それはネオンが光る都市のなかで一際浮いた存在だったからです。ここに一番理想とするアーティストは誰かとなった時、街を闊歩する人々の姿をダイナミックに表現するジュリアン・オピーの名前が一番に浮かびました。そこで、日本のエージェントをしているMAHO KUBOTA GALLERYを介してアーティストに相談したところ、あの場所、このタイミングでやれるのであればやりたいとすぐに快諾をいただいたのです。

―まさかの快諾ですね。

実はジュリアン・オピーはキューブ型をした作品シリーズをパブリックアートとして世界各地で多く展開していたこともあり、そのスタイルに合致したことが功を奏しました。

―都会の喧騒のなか圧倒的な存在感を放つ作品でしたが、どんなメッセージを渋谷で発信したかったのですか。

今回の作品は「Night City」と称されるように、彼自身の作品としては初めて黒を背景にしたものになりました。彼はコロナ禍のことを「ダークタイム」と呼び、その暗い世界のなかでも人々の生命エネルギーは闇を照らす希望の灯りのように輝いていたことを、メッセージとして発信したかったからです。渋谷と言えば、スクランブル交差点に代表される人が最も行き交う場所の一つです。この時期に世界の人々が彼の作品をみて、感化されるのは間違いありませんでした。

―今回プロデュースを手掛ける上で、パブリックアートを渋谷で実現させた意義とは。

渋谷は日本で最もポピュラーな都市の一つであり、毎日のようにテレビで紹介されています。普段、ファッションや音楽、食など様々なカルチャーが発信されるこの場所でも、欧米に比べてパブリックアートが少ないのが現状であり、ビルやネオンが目立つ都会の喧騒ばかりが印象的な街でした。そこに、見るものの心を奪う美しさや癒しをもたらすパブリックアートが、もっと必要だと日々感じていました。すぐに何千万円もかけて長年残していくような作品を制作するのは難しいですが、短期間の展開であったとしてもパブリックアートがあることで、街の景色が変わり、メディア、SNSなどの媒体によって人々の記憶のなかで半永久的に残ることができるのです。それらがニューヨークのようにパブリックアートが集積した文化発信都市を為す礎となりえたら、こんな嬉しいことはありません。

―ジュリアン・オピーの作品をフックに、FASHIONARTひいては渋谷ファッションウイークに関心を向けてくれたお客様も多いようですね。

どんなイベントでもそうですが、多くの人の関心を引きつけるためには目玉となる展示やコンテンツが必要です。回遊イベントの場合、会場が多くなる分、まずはどこに行ったらいいかが迷うことも多くなるので、起点となるメインスポットをつくることで、まずはイベント自体に興味関心を喚起し、さらにその起点があることで順路を検討しやすくする効果もありました。

―ジュリアン・オピーはもちろん、FASHIONART参加アーティストはどなたも魅力的でした。

今回は、藤元明さんや板坂諭さん、江越ミカさん、ナカミツキさん、山口真人さん、ジェンダーレスをテーマにしたTrue Colors FASHION、阿部伸吾さん、マルチスタンダード、大野彩芽さん、レスリー・キーさん、石川竜一さん、HONGAMA、水野健一郎さん、ラッセル・モーリス、マルコモンド、アオイネオン、ヤビク・エンリケ・ユウジ、千原徹也さん、嶌村吉祥丸さんなど、気鋭なアーティストが多く集まりました。イベント全体の注目度やそれに伴う集客数が増えれば、アーティストに対してもチャンスを生み出しやすくなります。

 

|商業施設、路面店、遊休スペースなどを活用した渋谷らしい“作品展示を実現

藤元 明 Fountain#Neustonplastics at 渋谷スクランブルスクエア7L×7  ©SHIBUYA FASHION WEEK 2021

 

―東京の街全体を舞台に22万人( 2019年)の来場を記録したデザイン&アートフェスティバル「DESIGNART TOKYO」と、渋谷での「FASHIONART」展開では、意識するポイントに違いはありますか。

多彩なジャンルで魅せていくDESIGNARTと、フォーカスの強さで魅せていくFASHIONARTとで意識するポイントが違いますね。FASHIONARTであれば、ファッションやアートを念頭に置いたキュレーションになりますので、作品や会場を選ぶ時もその文脈が語れるかが重要です。

―ファッションとアート、両方の側面がしっかりと打ち出されている作品を見ることができるのが、FASHIONARTの魅力ですね。

例えばジュリアン・オピーの代表作は、ロンドンのボンドストリートというファッション系ハイブランドがひしめく有名な通りで、そこで行き交う人々をモチーフに作品化されました。ドレスやスーツを着ている人もいれば、Tシャツやジーパンを着たカジュアルスタイル、他にもランニングスタイルなど様々なファッション要素があります。そして白人や黒人、アジア人など多様な人種が交錯しあう作品です。世界各地で人種問題などが蔓延るなかですが、多彩な人格が絡み合うその一瞬の情景は、それらの違いを軽々と越えて愛くるしさを感じるから不思議です。見る人になにかを感じさせるのがアートの強さであり、ファッションの多様性がさらに増幅させているのではないでしょうか。あとは渋谷を舞台にしているせいか、ポップ感が強い作品が多いかもしれませんね。

 

DESIGNART TOKYO

2017年から毎年秋に開催している日本最大級のデザイン&アートフェスティバル。今年で5年目を迎え、国際色豊かなクリエイターやメーカー、ブランドが主体となり、建築や家具、プロダクト、映像、グラフィック、ファッション、アート、テクノロジー、音楽、スポーツ、フードなど様々なジャンルの類いまれな作品や製品を発表するイベント。また、「感動の入り口」をコンセプトに審査があるため、どの展示作品を見ても大胆な作品を一堂に見られるのが特徴。ミラノやパリ、ロンドン、ニューヨークなどの主要都市と比べ、東京はミックスカルチャーの街ということもあり、一つのジャンルに囚われず宝探しのように街を巡り、新たな発見や出会いを生む機会として、少しずつ国際的に認知が広がる。クリエイティブ産業の活性化、人種業種を超えた出会い、若手支援をビジョンとして未来を見据えた文化啓蒙の発展に寄与していくことを目指す。

 

h220430 Ugly wardrobe at koe space(hotel koe tokyo 1F) 写真:尾鷲陽介

 

―前回春のFASHIONART初実施で感じた課題で、今回クリアした点はありましたか?

昨年は初めてかつ、コロナ禍での開催ということから、集客やPRなどが難しい状況でした。FASHIONART開催が2回目となった2021春渋谷ファッションウイークでは、感染拡大防止対策として、オンラインによる無観客ファッションショーやSNS(主にインスタグラム)を起点としたインフルエンス施策をより強く打ち出していたため、認知度の向上やメディア広告換算など昨年より良い結果を出すことができました。

―あらゆる渋谷ファッションウイーク施策のなかでも、FASHIONARTがイベント全体にもたらす効果は大きかったように思います。

今回の渋谷ファッションウイークは、アートディレクターを担当してくださった千原徹也さんのプロデュースでファッション性の高いビジュアルと共に、インフルエンサーやモデルを絡めたルックブックやポスター、インスタグラムにて参加商業施設ごとのスタイリングを発信しました。その波に乗ってFASHIONARTに参加したアーティストの作品紹介を打ち出していくことで、渋谷ファッションウイーク全体の認知をあげていき結果につなげていきました。そこに今回のジュリアン・オピーのパブリックアートが起爆剤の一つになったのは言うまでもありません。

 

嶌村 吉祥丸 breathe at 渋谷駅東口バスターミナル付近仮囲い 写真:尾鷲陽介

 

―今回の「分散型回遊イベント」を終えた率直な感想を教えて下さい。

様々な文化がブレンドされる渋谷を舞台にこれから活躍するアーティストをキュレーションできるのはとてもやりがいがあり、様々な試練はありましたが楽しく業務を遂行させていただきました。渋谷ファッションウイーク関係者やクリエイター、制作関係者の皆様に心から感謝です。渋谷ファッションウイークを通して、普段は競合である商業施設同士が一体感もって臨めたことは、フラットなイベントだからこそできることで意義深い活動だと思います。

―最後に、これからの渋谷に対して期待することはなんですか。

コロナ禍で消費が低迷する中、このようなポジティブな活動が疲弊してしまっている地方に、もっと伝播していければファッション業界全体を救うことだってできるかも知れません。それが日本を代表する文化発信都市“渋谷”の使命なのだと思います。スターバックスが美味しいコーヒーで多くの人の日常を豊かにしていったように、その渋谷ブレンドを美味しく味わってくれる人が増えていくことを願っています。

―「渋谷ではいつも面白いことが起こっている」と多くの人々に感じてもらうには、街の特性を活かしたコンテンツ展開が欠かせません。しかし、継続的に“渋谷ならでは“の企画をデザインしていくことは難しいもの。そんな中、今回のFASHIONARTのような取り組みは、街全体を盛り上げるためのひとつのフォーマットになり得るのではないでしょうか。青木さん、貴重なお話をありがとうございました!

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このコラムでは、これからもイベントレポートやインタビューなど、渋谷エリアの最新動向を発信していきます。
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菅原 理紗 / Risa Sugawara
2017年入社。
東急グループ施設情報を集約した「渋谷イベントスペースガイド」企画立ち上げ・編集を担当。
SHIBUYA FASHION WEEKでは事務局を務める。
頑張った日のご褒美ランチは奥渋谷にある「吉野」のうな丼か、「KURA」の納豆パスタ。
King Gnuのファンで、いつか渋谷の工事現場でライブが企画できないかと目論んでいる。

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